この本でお伝えすることを一言でいうなら、「60代社員の手取りを下げることなく、会社が支払う人件費を下げる方法」です。
2022年現在、定年後の再雇用は65歳まで義務化、70歳までが努力義務とされています。高齢化が進む中、経営者としては人件費の圧迫が、今後より大きな問題になっていくでしょう。
しかし国も、できるだけ従業員の雇用を延長しようとさまざまな方策を打ち出しています。定年再雇用時の給料の減額に対する給付金が支給されたり、厚生年金の制度が長く働きたい高齢者に対して徐々に有利なものに改正されたりしています。
実はこれらを上手に組み合わせることで、定年した従業員の再雇用時に、会社が支払う賃金を下げながら、社員の手取りをアップさせることが可能なのです。
「そんな都合のいい方法、あるわけないじゃないか」と思われるかもしれませんが、本当に可能です。なぜなら現に私が、多くのクライアントに対して提案をし、施策を実行しているからです。
この賃金提案のメリットは、
- 60歳以降の賃金支出の軽減による人件費抑制の効果
- 従業員にとっては「60歳以降の所得の最大化」と「就労の場の確保」を同時に実現できる
- 国が推奨する高齢者雇用の推進にも乗ることができる
と、会社、従業員、社会の「三方よし」になっているということです。Win-Win-Winです。
しかし正直なところ、これを実現するのは簡単ではありません。
提案のためには税金、厚生年金、雇用保険、労働契約等、いくつかの専門領域を横断した知識が必要になるからです。ゆえに多くの専門家が、仕組みとしては把握していてもこうした賃金提案を行うことができません。
縦割りの知識に横串を通した、現場の総合的な知識を知る人でなければ、今回の仕組みを活用することは簡単ではありません。
この本は、「60代社員の手取りを下げることなく、会社が支払う人件費を下げる方法」について、一体どのような仕組みなのか、何を活用すれば実現できるのかなどをあなたにできるだけ分かりやすく理解していただく内容となっています。
記載している内容の一部には、詳しい専門の知識や専門家の判断がどうしても必要な部分もありますが、この本は提案の全体像を知っていただくことが目的のため、細かい部分については説明を省略した部分もあります。
ですが、「どのようにしたらこの賃金提案が実現できるのか」についてはしっかりと理解できるように記載したつもりです。経営者のあなたが全体像を把握できさえすれば、あとはそれぞれの専門家の力を借りれば実現できるからです。
学者でも法律家でもない、現場をよく知るベテランの社会保険労務士だからこそお伝えできる、定年後再雇用の賃金提案の方法について、見ていきましょう。
(「はじめに」より)